本講座について

大学院教育では、予防医療学分野と協力して「健康・予防医療学領域の実装科学(Implementation Research in Health and Preventive Medicine)」 を専門科目として開講しています。
予防医療学分野のHPをみる

本科目では、実装科学の基本から応用に至るまでを体系的に学びます。主な内容は以下の通りです:
- 医学研究成果を臨床や社会へと橋渡しするための理論・モデル・フレームワーク
- EBMにおける実装科学の役割と、主要な理論モデル
- 実装を推進するリーダーシップ、コミュニケーション戦略、ステークホルダーとの協働
- 医学研究と臨床現場・社会実装のギャップを埋める方法論
- 政策立案、資金獲得、リソース確保の戦略
- 実装科学と社会・文化・政策的コンテクストをつなぐ視点
現場での実践に精通した外部講師による講義も実施し、学生が実装科学の理論と実践を統合的に理解し、研究成果を社会に普及・定着させる力を養います。
2025年10月には、初めて日本語で体系的にまとめられた実装科学の教科書『実践!実装科学』を出版しました。本書は二部構成で、Part1(基礎編)は、ケンブリッジ大学出版の Cambridge Elements シリーズの 『Implementation Science』(Paul Wilson, Roman Kislov 著)の翻訳です。国際的に認められた理論と知見を日本語で体系的に学ぶことができます。Part2(応用編)では、主要な実装戦略の特徴や代表的な活用事例、実践上の留意点を解説します。特に、医療現場における行動変容や質改善を促進するために広く用いられている戦略に焦点をあて、その意義と実践を実装科学の視点から概説しています。

- タイトル:実践!実装科学
- 出版社:インターメディカ
- 出版日:2025/10/20
実装科学の理論や枠組みを応用しながら、医療や公衆衛生の現場における多様な課題に取り組んでいます。
研究は、「デジタルヘルス実装研究」「ケアとシステムの質改善研究」「ヘルスリテラシーと健康情報研究」の3つの柱を中心に展開しています。
糖尿病や高血圧などを対象に、パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)情報を用いた生活指導が行動変容に与える効果を検証しています。すでに約200名の登録を完了し、現在追跡調査を実施しています。
自治体やベンダーがパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)を導入する際の課題を整理するため、実装科学のフレームワークを活用し、受容可能性(どの程度受け入れられるか)、実施可能性(現場で実行できるか)、持続可能性(長期的に続けられるか)といった実装の成否を左右する要素を評価に取り入れています。これらを基盤に、研究者、企業関係者など複数分野の専門家によるパネルで意見を重ね、合意を形成していく修正Delphi法を用いてチェックリストを作成中です。PHR普及推進協議会から2025年10月の公表を予定しています。
多施設で、ケアの質指標(Quality Indicator, QI)を測定し、監査とフィードバックを含めた質改善介入を実施しました。これは、QIを一定期間ごとに測定し、その結果を定期的に医療現場へフィードバックする仕組みであり、エビデンスに基づいた臨床行動の定着を促す方法です。介入の効果を評価するだけでなく、縦断的な評価を通じて、各施設における介入の促進要因や阻害要因を体系的に把握し、その変化を明らかにしました。その結果を踏まえ、臨床現場ごとのコンテクストに応じた実装戦略の必要性を検討し、介入が定着し持続可能となるための条件を提示しました。
京都市との共同研究として、京都市の医療・介護レセプトデータ、特定健診データ等を含む京都市統合データベースを用いたリアルワールドデータ研究を推進しています。生活習慣病、各種がん、介護領域などにおけるエビデンスの創出、エビデンス・プラクティス・ギャップに関わる研究を推進しています。
オンライン健康情報の質を評価するための新たな指標(PRHISM)の妥当性検証を行い、YouTube医療動画の信頼性評価に有用であることを示しました。また、大規模調査を通じて、eHealthリテラシーとCOVID-19情報検索行動の関連や、慢性疾患を持つ人々のSNS・動画利用の傾向を明らかにし、健康情報行動の多様性に関する研究を行っています。
本講座は、大学と企業の強みを活かした産学共同講座として、エビデンスに基づく医療・公衆衛生の成果を社会に実装することを目的としています。
今後は、デジタルヘルスやパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の活用をはじめとする新たな技術を実装科学の観点から評価・普及させ、学術的知見と社会的ニーズをつなぐ活動を推進します。さらに、自治体・医療機関・企業との共同研究や教育活動を通じて、日本発の実装科学を世界に発信し、持続可能な社会の実現に貢献します。


